プロセスエコノミー時代のPRとは〜どんな企業・チームでも話題・ネタを創り出すためのPRストーリーの重要性

はじめに

企業・団体の広報・PRにおける基本活動として、またメディアへのアプローチツールとして重要なプレスリリース。現在10件ほどある配信サービスにおける1社の年間配信件数は約20万件にものぼり、企業やPR会社からの配信も含めると膨大な数のリリースが展開されています。

すでにこうした情報発信を推進してきた方も、これから活動の充実を図っていきたい方も、「どうしたら、より多くのメディアに注目され、生活者及びターゲット層に深い情報訴求が実現できるのか」は、誰にでもつきまとう課題であり、活動推進のポイントになってきます。PR活動が、ワンウェイの一方的な情報提供ではなく、各種メディアやその先の生活者の“興味関心”、“志向・ニーズ”に合ったものでなくてはならないのは周知のことですが、ではこれからのステークホルダーにおける“志向・ニーズ”とは何なのか。これを探っていくうえで、経済・社会におけるより大きな視点が重要になってくると思います。

 

注目を集めるプロセスエコノミーという概念

IT批評家の尾原和啓氏の執筆による『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(幻冬舎)は、2021年7月に出版されるなり、予約販売時からアマゾンの書籍ランキング1位を獲得し話題となりました。新商品のスペックやデザインでの大きな差別化が難しくなり、またデジタル技術によりコピーも容易に、新サービスは直ちに模倣されてしまう現象は、昨今多くの方に思い当る傾向ではないでしょうか。

「完成品で差別化するのは難しい。そんな時代にはプロセスにこそ価値が出る。なぜならその人だけのこだわりや哲学が反映されたプロセスは誰にもコピーできない」、「完成品ではなく制作過程そのものを売る。プロセスエコノミーはこれからを生きる全ての人の武器になる。」と著者は語ります。独立研究者、著作家、パブリックスピーカーなど多方面で活躍している山口周氏からは、「価値の源泉が“アウトプット”から“プロセス”に移行する。全ビジネスパーソンにとって必読です」と評しています。

「プロセス(制作過程)にこそ価値がある」。

こうした考え方は、実は広報・PRマンにとって、以前から非常に慣れ親しんだ考え方だと思われます。なぜなら、新商品・新サービスをリリースしていく際や、その手前のPR企画段階において、対象テーマに対していかに情報バリューを創出・付加していくのかを考えるにあたって、その背景やローンチまでの過程をストーリー化して発信していくスキル、思考法を常に求められているからです。

プロセスエコノミーへのPR的アプローチ

広報・PRマンにとって、非常に活躍の場が広がりそうな「プロセスエコノミー」においては、具体的にはどのような協力・サポートが考えられるでしょうか。

基本的には、
1 プロジェクトの開始時の告知による賛同者、協力者の獲得
2 プロジェクト推進過程でのトピックスの抽出による経過広報と新たな参加者の獲得
3 プロジェクトのアウトプットにおける認知最大化と理解浸透の促進

という風に、3つのフェーズに分割でき、③までの成功実績を、新たなプロジェクトの①につなげることで、雪だるま式にプロジェクト体が成長・拡大していくことが理想的と考えます。

もちろん、あえて①と②のフェーズを伏せておくことで、③のアウトプット時により大きな成果をつくりだし、社会的な反響を踏まえて、①や②に遡ってプロセスが明らかになることで、生活者等ステークホルダーにとって、より深い理解や共感を生み出すようなPR戦略も考えられます。上述したことは、決して新しいPR戦略・手法ではありません。これまでも同様なスキームで多くの広報活動が展開されています。しかしながら、商品・サービス開発シーンにおいて、「プロセスエコノミー」がここまで注目されている今だからこそ、広報・PR視点での戦略や戦術が企業・団体のマーケティング活動に重要性を増しているのではないでしょうか。

PRストーリー構築のポイント

ここまで考えてきた通り、「プロセスエコノミー」の“プロセス”は、広報活動における“PRストーリー”と考えられます。広報・PRマンは、すでに動いていたり、これから動き出そうしている「プロセスエコノミー」的プロジェクトに、これまで培ってきたPR思考や技術を持って、参画・支援していくことが可能ですが、こうした関わり方だけではなく、クライアントに対して、「プロセスエコノミー」の企画段階から協力していくことが可能と考えます。対象テーマやプロジェクトにおいて、PRストーリーを描きながら、「プロセスエコノミー」へと発展させていくような取り組みです。では具体的には、どのようにPRストーリーを構築していくのか、整理してみたいと思います。

基本的な考え方

PRストーリーの構築においては、「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された本田哲也氏が提唱した戦略PRの考え方がベースになると考えられます。「売れる空気作り」、「求める理由づくり」、「権威づくり」を施しながら、ターゲット層のインサイトに、“自分ゴト化”、“仲間ゴト化”、“社会ゴト化”の喚起・定着を図ります。具体的に、メディア及びその先の生活者に向けたストーリーづくりの要素を考えたとき、大きく3つのアプローチがあると考えます。

1 (過去から現在に至る)歴史や社会通念の再定義、社会問題の改善
2 (今現在の)トレンドの創出・時流に合った取り組み
3 (未来に向けて)新たな価値観、新たな(数値的)記録の創出

こうしたポイントを「WHY」、「WHAT」、「HOW」として明確化しながら、または背景と現状、今後の展望として語り掛けていくことをイメージしながら、PRストーリーを構築していきます。

絡めていきたいキーワード

PR対象テーマのPRストーリーの設定においては、メディア及び生活者にとってわかりやすいアイキャッチ的な社会性のあるキーワードを盛り込むことも重要になってきます。本コラム執筆時(2021-2022年)で考えると、組み込みたいキーワードの例を以下に示してみます。

・コロナ禍 / コロナ下 / Withコロナ/アフターコロナ / ポストコロナ
・DX / テレワーク /オンライン・リモートサービス
・巣ごもり消費 / リベンジ消費/エシカル消費 / キャッシュレス/ サブスク
・脱炭素 / 再生エネルギー/ SDGs / ESG
・AI / IoT / 5G / MaaS / NFT/サイバーセキュリティ
・ウェルビーイング / D&I / JGBT/ バリアフリー

以上のようなキーワードが、プロジェクトの背景や内容・目的としてリンクさせていくことができると、情報バリューを高めることにつながり、広報・PR効果を向上させていくとができると考えます。

最後に

改めて「プロセスエコノミー」という概念に立ち返ったとき、「価値の源泉が“アウトプット”から“プロセス”に移行」、「なぜならその人だけのこだわりや哲学が反映されたプロセスは誰にもコピーできない」ことが顕著になっていくということは、既存・既成の社会フレームにこだわらない、“個”の力が重要となってくる時代であり、製品・サービス開発及び広報PR活動において、組織の規模に関係なく発展を目指すことができると思われます。当社PRチームは、クライアント様と共に対象テーマに応じたPRストーリーの構築や情報発信、その拡散・浸透を実現する活動を通じて、社会に意味ある話題を投じ貢献していきたい所存です。

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